胸郭出口症候群(Thoracic Outlet Syndrome、以下TOS)は、首から腕にかけての神経や血管が圧迫されることで、肩や腕、手に痛みやしびれ、運動障害を引き起こす疾患です。
特に、野球選手のように腕を頻繁に使うスポーツ選手に多く見られます。
今回はそんな胸郭出口症候群について、柔道整復師と鍼灸師の国家資格を持つ森下が、対策と予防方法を解説します。

TOSの原因と病態
TOSは、以下の部位で神経や血管が圧迫されることで発症します
・斜角筋隙: 前斜角筋と中斜角筋の間
・肋鎖間隙: 鎖骨と第一肋骨の間
・小胸筋下間隙: 小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方
これらの部位での圧迫により、腕神経叢や鎖骨下動脈・静脈が影響を受け、症状が現れます。
もともと鎖骨と第一肋骨の間を通る神経・血管のトンネルが狭いことが挙げられます。
• 前・中斜角筋の間のトンネルが狭い
• 鎖骨と第一肋骨の隙間が狭い
• 異常な線維が走っていて神経・血管を圧迫する など
野球選手におけるTOSの特徴
野球選手、特に投手は、繰り返しの投球動作によりTOSを発症しやすいとされています。
小学生などの若年層でも、体が未成熟であるがゆえにTOS症状を発症することがあります。
TOSの主な症状
TOSの症状は、神経や血管の圧迫によって異なります
神経圧迫による症状
◦ 肩や腕、手のしびれや痛み
◦ 握力の低下
◦ 手の細かい動作の困難さ
◦ 手内筋の萎縮
動脈圧迫による症状
◦ 腕の蒼白
◦ 冷感
◦ 痛み
静脈圧迫による症状
◦ 手や腕の青紫色の変色
◦ 腫れ
これらの症状は、腕を挙げる動作や特定の姿勢で悪化することが特徴です。
手や腕をつかさどる神経や血管が胸郭出口という狭い隙間で圧迫されることで、肩から手先にかけての痛み、シビレ、だるさ、握力の低下、手のむくみ、手の蒼白感などの症状が出るのが胸郭出口症候群です。
TOSの診断方法
TOSの診断には、以下の方法が用いられます
1. 理学的検査: Roosテストやライトテストなど、特定の動作で症状を再現する検査
2. 画像診断: 3D-CTや血管造影3D-CT、超音波検査などで圧迫部位を特定
3. 電気生理学的検査: 神経伝導速度検査や筋電図検査で神経の障害を評価
特に、超音波検査は非侵襲的で有用な手段とされています。
TOSの治療法
TOSの治療は、症状の程度や原因に応じて以下の方法が選択されます。
1. 保存療法
◦ リハビリテーション: 姿勢矯正やストレッチ、筋力強化運動
◦ 物理療法: 超音波療法や電気刺激療法
◦ 薬物療法: 鎮痛剤や筋弛緩剤の投与
これらの保存療法で約60%の患者は症状が改善します。
2. 手術療法
保存療法で効果が得られない場合、圧迫部位の外科的除去(第1肋骨切除術や斜角筋切離術)を行うことがあります。
野球選手における予防と対策
野球選手は、以下の点に注意してTOSの予防と対策を行うことが重要です。
• 適切なウォームアップとクールダウン
肩や首のストレッチを十分に行い、筋肉の柔軟性を保つ
• 投球フォームの見直し
無理のないフォームを習得し、過度な負担を避ける
• 定期的なメディカルチェック
早期発見・早期治療のために、専門医の診察を受け
• 筋力バランスの維持
肩甲帯周囲の筋力を均等に鍛え、姿勢を改善する
TOSは、適切な診断と治療、そして予防策を講じることで、症状の改善や再発防止が可能です。
特に野球選手のように、日常的に肩や腕を酷使する競技者にとっては、「早期発見・早期対応」がカギとなります。
症状が軽度のうちに対応すれば、競技への復帰もスムーズになりますし、慢性的な障害に発展するリスクも抑えられます。
保護者・指導者が知っておくべきこと
ジュニア世代の選手においては、自身の身体の不調を言葉でうまく表現できないケースも少なくありません。
そのため、保護者やコーチなどの周囲の大人が、日常的な変化に敏感であることが大切です。
• 「最近、ボールがうまく投げられない」
• 「腕がしびれると言っている」
• 「フォームが変わってきた」
こうしたサインは、TOSをはじめとする運動器障害の前兆かもしれません。医療機関への受診を早めに検討することで、重症化を防ぐことができます。
野球とTOSにおける最新知見とまとめ
TOSは、単なる肩こりや筋疲労と見過ごされやすい一方で、進行すると神経の損傷や血流障害など、パフォーマンスに深刻な影響を与える病態です。
野球選手にとっては、投球フォームやトレーニング内容を見直すきっかけにもなり、適切なアプローチによって選手生命を守ることが可能です。
TOSの診断・治療には、スポーツ整形や神経内科など専門的な知見が必要なことも多く、早めにスポーツに詳しい医師や施設に相談するのがベストです。
まずは医療機関等で精密な検査をして原因を確定させるようにしましょう。